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東京高等裁判所 平成4年(ネ)2980号 判決

控訴人 サイセイカンパニー株式会社

右代表者代表取締役 小松信行

右訴訟代理人弁護士 満園武尚

満園勝美

塚田裕二

被控訴人 吉川凉一

主文

一  原判決中控訴人敗訴部分を取り消す。

二  被控訴人の請求を棄却する。

三  訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

理由

一  請求原因1(本件契約の成立)について

前記争いのない事実に、≪証拠省略≫及び弁論の全趣旨を合わせれば、次の事実が認められる。

1  控訴人(平成三年一一月一五日変更前の商号は株式会社香陵商事)は、スポーツプラザ等の持分所有形式による小口分譲販売等を目的とする会社であるところ、昭和六二年ころ、「スポーツプラザ三〇では、一口わずか三〇万円でオーナー権を確保。ご購入になった口数に応じ、家賃と売上収益の配当をお支払いするという合理的なシステムです。どなたでも、気軽にオーナーになることができ、さらに、ボーナスや預貯金の活用にも最適といえます。」「オーナーは、いながらにして年率四パーセント、一口につき一万二〇〇〇円の安定した家賃収入を得ることができるわけです。さらに、オープン一年後からは、プラザ売上収益の一部を所有口数に応じ配当。仮に収益が減益だった場合でも、年率四パーセントは株式会社香陵商事が責任をもってお支払いいたします。」「他の資産運用の手段と比較しても、その投資効率の高さは、今後ますます上昇することが予想されます。」という内容の広告を出し、投資を勧誘した。

2  被控訴人は、右広告を見て、これに応募することとなり、昭和六二年一一月一八日、控訴人との間に、被控訴人が控訴人から、本件物件の持分四三四一分の三〇(三〇口)を代金九〇〇万円で購入する旨の売買契約と、控訴人に対し、右持分を一口につき年額一万二〇〇〇円の割合の賃料で賃貸し、控訴人が本件物件をスポーツ施設として使用する旨の賃貸借契約を締結し、その際、スポーツプラザ・三〇土地付建物売買契約書を作成した(なお、本件物件の持分の売買代金額は、相当なものであった。)。

右契約書の売買に関する条項には、手付金(二条)、公簿売買(六条)、引渡及び所有権移転時期(八条)、租税公課負担区分(一〇条)、瑕疵担保責任(一四条)などの定めがあり、通常の不動産の売買契約の条項と特に異なるものはないし、また、買主(被控訴人)が持分を第三者に譲渡する場合には、本件契約の条項を承継させるものとし、速やかに売主(控訴人)または売主指定の者に通知するものとする(一八条)旨の定めがあるけれども、右持分の譲渡等の処分を制限するような規定は存在せず、買主は、持分取得後、これを自由に処分することができることになっている。賃貸借に関する条項には、右賃料についての合意のほかに、次回の賃料については年額一万二〇〇〇円を下限とし、売主は賃料増額に努力するものとする(一七条)旨の定めがあるものの、通常の賃貸借と特に異なるものではない。

契約の解除に関する条項としては、売買契約に関する部分に、本契約締結後各当事者が本契約に違背し、定めた事項を履行しない時は相手方は催告のうえ本契約を解除することができる(一五条)旨の定めがあるのみで、前記賃貸借契約に関して賃料不払等の不履行がある場合に、これを理由として、本件契約全部を解除することができる旨の定めは存しない。なお、右契約の際の重要事項説明書には、契約解除に関する事項欄に、「契約成立後締結した契約条項を売主、買主いずれか一方が履行しないとき。なお、代金支払不履行の場合は、期限を定めた催告の期限内に義務を履行しないとき。」との記載があるが、右の記載は右一五条の規定を受けてこれを説明したものである。

また、右契約書には、本件契約が融資契約であることを窺わせるような定めは存在しない。

3  本件物件の持分の売買契約は、双方とも履行を完了し、控訴人は、スポーツプラザの収益が減益であったにもかかわらず、第一期から第三期まで(昭和六三年から平成二年まで)約定どおり一口当たり一万二〇〇〇円の割合による賃料を支払っていたが、経営が苦しくなったため、第四期(平成三年)から、一方的に、一口当たり六〇〇〇円の割合に減額した賃料を被控訴人に支払った。その後控訴人は倒産するに至った。

右認定の事実によれば、本件契約は、これを経済的にみれば、持分の取得者(買主)が取得した持分を直ちに売主に賃貸し、もっぱら賃料を収受することによって経済効果を達成する仕組みであって、持分の処分により投下資本の回収を図ることも可能である。一方、法律的には本件物件の持分の売買契約と賃貸借契約との混合契約であることが明らかである。そして、本件契約の各条項を仔細に検討すれば、売買契約の部分と賃貸借契約の部分とはそれぞれ可分のものとして扱われており、売買契約の解除は売買契約の条項に不履行があった場合を前提とし、賃貸借契約の不履行により売買契約の効力が左右されることを窺わせる条項は存在しない。そうすると、本件契約においては、賃貸借契約の不履行により売買契約をも含めた本件契約全部の解除を予定した特段の規定のない以上、売買契約の履行が完了した後は、売買契約の解除事由も消滅し、賃貸借契約の不履行など賃貸借契約上の問題によって売買契約の効力が影響を受けることはないこととし(賃貸人は賃料請求、賃貸借契約の解除、持分の処分などの方法を選択することができる。)、法律関係の安定を図ったものと解するのが相当である。

ところで、被控訴人は、賃料支払債務の不履行を理由として本件契約全部の解除を主張しているが、右に説示したとおり解除事由に当たらないから右主張は理由がない。

よって、その余の点について判断するまでもなく、被控訴人の請求は理由がない。

二  以上のとおり、被控訴人の本訴請求は理由がないから、これを失当として棄却すべきである。これと異なる原判決中控訴人敗訴部分を取り消したうえ、被控訴人の請求を棄却する

(裁判長裁判官 時岡泰 裁判官 大谷正治 小野剛)

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